【書評】『解像度を上げる — 曖昧な思考を明確にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点』〜「仕事ができる」ようになるためにはどうすればいいかがわかる!

Amazonにおける本の紹介

「ふわっとしている」「既視感がある」「ピンとこない」誰かにそう言われたら。言いたくなったら。解像度が高い人は、どう情報を集め、なにを思考し、いかに行動しているのか。スタートアップの現場発。2021年SpeakerDeckで最も見られたスライド、待望の書籍化!

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感想

もともと「解像度」は印刷やディスプレイなどの分野で使われる言葉でしたが、最近ではビジネスでも解像度」は物事への理解度や表現の精細さ、思考の明晰さなどを示す言葉として使われるようになってきました。

著者は10年近く、起業家支援を行ってきた方で、この本の内容もスタートアップの事業についての記載が多いのですが、「解像度を上げる」ということは自分の仕事にも役立つことなので、読んでいて面白かったです。


わたしは以前の職場や現場で、研究開発の仕事をすることが多かったです。なにか新奇でインパクトのあるものを作りたいわけですが、なかなか上手くいかないことが多くて、研究開発って難しいな…と感じていました。

本書を読んで、上手くいかなかったのは、課題設定や解決策の「解像度が低かった」から、とくに「深さ」が足りていなかったからだとわかりました。

もっというとプロジェクトに対して十分な検討のための時間をさけていなかったということなのですよね。


この本は「解像度を上げる」にはどうすればいいか、ということが、具体例を交えながら行動指針が示されます。本の中でも「行動する」ことの重要性が強調されていて、たとえば課題についてリサーチをするとか、インタビューするとか、書き出すとか、そういう体を動かして課題に向き合っていくことが大事と書かれています。行動指針がかなり具体的なので、自分でもすぐに試してみることができそうだと感じました。(知りたい方は本書をお読みください)

課題の解像度を高めるためには、知識の習得や気づきを得る「内化」と、知識や思考を表現する「外化」の両方が大切です。つまりインプットとアウトプットの両方を繰り返していくことで課題をよりはっきりと理解することができるようになるということですね。

インプットのしかたが具体的に書かれていて、とくにインタビューに関しては効果的な質問例の載っていてすぐに役立ちそうでした。

また、アウトプットについては、言語化すること、とくに「書くこと」がよい、ということがくりかえし強調されています。

わたしは技術ブログを書くようになり、アウトプットの機会が増えてから、インプットの質も量も上がったことを実感していて、やはりアウトプットの場を(強制的にでも)もうけることは重要だと思います。


また、「センス」や「直感」は深く広い調査や構造化によって得られた洞察力によるものであって、何もせずに降って湧いてくるものではない、というのはすごく勇気づけられるというか、「努力し続ければその分野でいっぱしの人間になれる」と思えたんですよね。

わたしはわりと「自分の能力が低いから仕事できないんだ…」と思って落ち込むことが多いのですが、「コツコツ努力を継続し続けたら、仕事ができるようになる」「いま仕事ができないのは単純にかけた時間が少なすぎるから」ということなのですよね。

以前も書いたのですが、社会人になってからようやくそのことに気づき始めて、そこからコツコツ頑張ろうと思えるようになったんですけど、もっと早く知りたかった…自分の身の回りに、普段から努力を継続している人がいる、というのはすごく大事なことなんだなと、今自分の子供時代を振り返って思います。


コミュニティに所属することの効果についても述べられていました。

コミュニティに参加することで新たな情報や考え方を得ることができますし、言語化や壁打ちの機会が自然と増えます。

わたしはいまの会社はなかなかいいコミュニティで、情報交換や技術共有も盛んで、資格やKaggleなどを頑張っている方が多く、自分も頑張ろう!と思えています。まわりから受ける刺激ってモチベーションにすごく影響がありますよね。

とはいえ別の業界でデータサイエンスをやっていらっしゃる方や、女性のエンジニアの方ともっと荒涼したい気持ちがあります。いろいろ探してみなくっちゃ。

今の時代はネットでコミュニティを探せて、いい時代になりましたね!


最後に、とくに印象に残った部分を紹介します。

コラムで、「解像度を高める努力は、世界をシンプルにとらえることではなく、その複雑さに向き合い、それを深く理解しようとする試み」というようなことが書かれていました。

最近の言説では「シンプルさ」が過度に重視されていて、複雑な問題を単純に表現できる人(ひろゆきとか…)が賢いと見なされているように感じます。シンプルな答えや断定的な結論は、特に陰謀論などの誤った情報の拡散に繋がるリスクがあります。

「解像度を高める」ということは、快適な環境から一歩踏み出し、世界の複雑さに立ち向かい、疑問を持ち続けることが重要で、辛い作業です。「そういうものだ」「しょうがない」と思っている方がずっとずっと楽です。でもこの努力は「単純な答えに満足せず、世界を深く理解し愛する過程」であると書かれていて、そうだ、世の中の不正や理不尽や課題に疑問を持っていくことは、自分の人生を良いものにしたいという気持ちとセットなんだと感じました。


実は2024年は「丁寧に仕事をする」というのが一つのテーマなのですが、仕事ができて評価されている人と比べて、自分は仕事が雑というか、タスクの理解が浅いなと感じることが多かったんです。「丁寧」に仕事をするためには「与えられた仕事を理解するためにしつこく考え続ける、場合によってはめんどくさがれることをいとわずに人に質問しまくる」ことが大事だなと思っていました。

それはすなわち「解像度を上げる」こと、つまり「深さ」「広さ」「構造」「時間」の観点で与えられた仕事を理解することだし、本書ではそのためにはどうしたらいいかという行動が具体的に書かれていて、「よーし来年から実践していこう!」とワクワクしています

以前も書きましたが、わたし的に「いいビジネス書」というのは「行動を促してくれる本、やる気を出させてくれる本」だと思っていて、この本はまさしくそのようないい本でした。おすすめ!

概要

はじめに・おわりに

著者は10年近く起業家支援を行ってきた方で、この本ではその経験に基づいた洞察が述べられています。

著者の観察によると、優秀な起業家は、顧客の課題に対する深い理解と、具体的かつ明確な答えを持っています。対照的に、解像度の低い起業志望者は、具体性や明確さを欠き、答えが曖昧であることが多いようです。

また、著者は解像度を上げることの重要性を強調しています。解像度を高めることで、現状の理解を深め、新たなビジネス機会を認識し、効果的な業務実行が可能になると説明しています。解像度を上げる努力は、日々の継続的な学習と行動によって達成されます。

1章 解像度を上げる4つの視点

もともと「解像度」は印刷やディスプレイなどの分野で使われる言葉でしたが、最近ではビジネスでも解像度」は物事への理解度や表現の精細さ、思考の明晰さなどを示す言葉として使われるようになってきました。

文中では、解像度が低い状態として、物事への理解不足や議論の具体性欠如などが挙げられています。

解像度の高い状態とは、深く広く構造的に課題を捉え、時間を考慮しながら効果的な解決策を提供することを意味します。著者は解像度の高さを構成する要素として「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点を提案しており、それぞれの視点で物事を整理することで、より具体的な行動に繋がると述べています。

また、深さ、広さ、構造、時間の視点が相互に影響しあい、解像度を高めることが可能になります。

深さのない状態では根本的な問題を見極めることができず、広さがなければ異なる原因やアプローチを幅広く検討できません。構造を理解することで要素間の関係性や相対的な重要性が把握できるため、解像度を上げるためには必要不可欠です。時間の視点では、経時変化や因果関係、物事のプロセスや流れを捉えることが重要です。このように著者は、深さ、広さ、構造、時間のバランスを取りながら解像度を高めることの重要性を説いています。

2章 あなたの今の解像度を診断しよう

解像度が低い状態は、分からないことが分からない状態、つまり質問や疑問を持てない状況として表現されています。解像度を高めるためには、まず分からないことを認識し、重要な部分を特定して検証する必要があります。

著者は、情報の構造化が解像度を高める鍵であると指摘しています。構造化が不十分な場合、重要な点を明確に伝えることができず、情報が冗長になりがちです。ユニークな洞察の欠如も解像度が低い状態の特徴とされています。このほかにも、幅広い視野が必要であり、例えば競合製品との詳細な比較能力が解像度の高さを示す指標の一つとされています。

解像度の高い思考は、深い理解、論理的な構造、ユニークな視点、幅広い視野を持つことが特徴です。

また、課題の解決策を提案する際は、その解決策が現実的かつ実行可能であることを確認することが重要です。短期的および長期的な目標、それらを達成するための具体的なステップや時間軸を明確にすることも、解像度の高い思考に不可欠です。

最終的に、著者は世界をより深く理解し、より豊かに経験するためには、日常生活での認識を自動的なものから意識的なものに変える必要があると述べています。解像度を高める努力は、世界をシンプルにとらえることではなく、その複雑さに向き合い、それを深く理解しようとする試みであると説明しています。

3章 まず行動する・粘り強く取り組む・型を意識する

解像度を高める基本姿勢として、「行動すること」「粘り強く取り組むこと」「型を意識すること」が挙げられています。解像度を高めるためには、情報収集と思考だけでは不十分で、行動が重要な要素であることが強調されています。行動することで、実際のフィードバックや経験を通じて、質の高い情報と思考を得ることができると説明されています。

スタートアップのコンセプトである「Minimum Viable Product (MVP)」を例に、最小限の製品を作り、フィードバックを得て改善するプロセスが解像度を高める方法として紹介されています。このプロセスは、行動し始めることで解像度を上げる一つの方法です。さらに、実践的な「行動の方法論」を学ぶことで、効率的に行動に移しやすくなることが強調されています。

解像度を上げるためには、時間を十分にかけることが重要であり、特に起業のアイデアを練る場合には約1000時間の時間が必要だとされています。しかし、単に時間をかけるだけではなく、情報と思考と行動の質を確保する必要があることも強調されています。

行動する際には、型を学んでから実践することが推奨されており、型に従って行動し、それを粘り強く続けることが解像度を高める王道であると述べられています。

最後に、ビジネス上での価値創造について触れられています。ビジネスにおいて価値は、「製品やサービスから顧客が得られるメリットや満足感」と捉えられ、価値が生まれるためには顧客の「課題」と「解決策」の解像度を高める必要があるとされています。そのためにも、解像度を上げるための4つの視点「深さ」「広さ」「構造」「時間」をバランスよく回していくことが重要であり、特に「行動」が大事であると強調されています。また、最適な解像度を見極めるためには、目的に応じて必要な最小限の条件を満たす「サティスファイスを意識することが重要だと述べられています。

4章 課題の解像度を上げる – 深さ

良い課題は大きく、合理的なコストで解決可能であり、小さな実績を生み出すものです。大きな課題に取り組むことにはリスクが伴いますが、競合が少なく成功の可能性が高いとされています。特にスタートアップでは切迫したニーズを見つけることが重要です。

課題の解像度を高めるためには、内化外化のプロセスが重要です。内化は知識の習得や気づきを得る行為であり、外化は知識や思考を表現する行為です。これらを繰り返すことで学習が進み、課題の解像度が高まります。

言語化は課題の解像度を高める重要なステップであり、考えを具体的に書き出すこと、主語や動詞を明確に使うこと、冗長さを避けることが推奨されています。

サーベイを通じて大量の情報を得ることも重要で、十分な情報があれば独自の洞察や新しいアイデアへの道が開けます。

インタビューは多様な職種での課題解決に役立つコストパフォーマンスの高い手法です。顧客インタビューを通じて顧客の行動や課題を深く理解することが可能です。インタビューでは事実を重視し、「6W3H」を用いて詳細な事実を確認することが効果的です。

インタビューには構造化、半構造化、非構造化の3種類があり、状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。特に半構造化インタビューは深い洞察を得やすいとされています。インタビューだけでは限界があり、現場観察や参与観察を通じてより深い洞察を得ることが重要です。

言語化プロセスは重要で、メモを取る、対話を通じて考えを深める、教えることを通じて理解を強化するなどの手法が有効です。Why so?」と自問自答することで、より深い洞察に至ることが可能です。

コミュニティの活用は思考の深化と解像度を上げるために非常に効果的です。コミュニティに参加することで新たな情報や考え方を得ることができ、言語化や壁打ちの機会が自然と増えます。共同で思考することは深い洞察を得るための強力な手段です。

課題を深掘りするには研究者や専門家としての姿勢が必要で、サーベイ、インタビュー、現場観察、深い思考といった活動に時間を割くことが大切です。

5章 課題の解像度を上げる – 「広さ」「構造」「時間」

深さの掘り下げだけでは不十分な場合、または深めるべき箇所が不明確な場合には、「広さ」の視点を取り入れることが重要です。

深さと広さのバランスを取るためには、「構造」の理解が必要です。問題を適切に分解し構造化することで、より深く広い視野で問題を捉えることができます。また、物事の時間的変化も考慮することが大切です。

「広さ」の視点からは、前提を疑い、視座を変えることが基本です。体験や他者との対話が有効であり、様々な疑問やリフレーミングを使って視野を広げることが役立ちます。

自身の上司や顧客、競合他社、評価者などの立場に立って物事を考えることや、未来の視座から現在を見るバックキャスティングやプレモーテムのような手法が新たな視点を得るのに役立ちます。理論や異なる視点を持つことで、物事を多角的に見ることが可能です。

競合製品の利用や旅行などの新しい体験を通じて得られる気づきは、問題解決の視野を広げます。また、様々な人との対話を通じて、独自の情報や多様な視点を得ることができます。効率を重視するあまり、体験や対話の機会を逃すことは、解像度を高める機会の喪失につながります。

深さ、広さ、構造、そして時間の視点をバランス良く取り入れることで、課題の解像度を高め、より洞察に富んだ解決策にたどり着くことが可能になります。深さは急速に視界が開けることがあり、広さは日々の活動を積み重ねることで徐々に広がります。解像度を上げるためには、さまざまな選択肢の中から適切なものを選び、深掘りする必要があります。

選択肢を絞る際には、既存の知識や経験、他の領域や企業の事例を参考にすることが効果的です。専門家からのアドバイスやインタビューを通じて深掘りするべき領域を特定することも有用です。

実現可能性を考慮して選択肢を評価し、どの領域を深めるかを決定する過程では、構造を理解することが重要です。

構造化のプロセスでは、要素を分け、比べ、関係づけることが必要で、ツリー構造やMECEの原則を用いて要素を整理し、さまざまなフレームワークを活用します。

重要な課題を特定するためには、要素間の関係を理解し、構造を明確にすることが求められます。

6章 解決策の解像度を上げる – 「深さ」「広さ」「構造」「時間」

ビジネスの解決策は、課題を効果的に解決し、合理的なコストで実現可能、そして他の選択肢より優れている必要があります。解決策のオーバースペックは無駄なコストを生むリスクがあります。高い解像度で課題を理解し、顧客の要求に応える最低限のスペックを明確にすることが重要です。

解決策の開発では、実現可能性とコストの合理性を考慮し、競合との比較で優位性を持つことが求められます。プレスリリースの形式での言語化や、繰り返しの「How」の問いかけにより深みを増すことができます。専門性を磨き、手で考え、体で考えることも重要です。解決策の構造を築く際には、システムの観点からアプローチし、言語化、プロトタイプの作成、ロールプレイ、競合製品の使用などが役立ちます。

異なる領域の視点や技術を探求し、外部資源を活用することで、解決策の広がりを見つけることができます。

解決策の真の意味を考え、システムを意識して構造を築くことが、解像度を高めるために重要です。

7章 実験して検証する

課題と解決策の解像度を高めた後、それらが仮説であることを理解し、実験を通じて検証する重要性を著者は説いています。実験は、解決策の有効性を検証し、新たな洞察を得るための重要な手段です。実験はコストパフォーマンスの良い小規模なものから始め、本番に近いフィードバックを目指します。「手で考える」ことの重要性が強調され、実験を通じて新しい価値に気づく可能性があります。最小限の内容でサービスをローンチし、解決策の重要部分を理解することも提案されています。

実験の成功は、仮説の正しさではなく、得られた学びの量で測るべきです。実験は、単なる仮説検証以上の価値を持ち、周囲の環境を変えて新しい機会を作り出すことも可能です。

8章 未来の解像度を上げる

この章では、課題発見と解決、理想の未来像へのアプローチについて語られています。課題は、他者から与えられるものではなく、自ら選ぶものであり、理想を選ぶことにも等しいとされています。理想の設定は間違うと危険であり、課題の在り方を大きく変える可能性があります。

未来の解像度を高めるためには、情報、思考、行動の3つが重要で、制度分析、専門家インタビュー、コミュニティ参加などを通じて未来に関する深い洞察を得ることができます。

未来は変わる可能性があり、望む未来を作り出すことも可能です。理想の未来を定める際には、予測と願いのバランスが重要です。

未来への思いや願いを持てていない場合、将来世代の視点に立って考えることが有効です。フューチャーデザインや重要な会議での未来世代への席の設置など、未来世代の視点を取り入れる方法が紹介されています。大きな課題に取り組む際には、外部からの資源獲得も重要です。理想を生き、行動し、未来を生きることが事業の機会を提供します。

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