はじめに
「生成AIを事業に活用する」ための書籍は玉石混交ですが、この本はよかったです!既存のAIサービスと筆者の経験をもとにした分析は鋭く、経営層や新規事業開発に携わる人たちにとって非常に価値のある情報が盛りだくさんでした。
1章での生成AIの影響の全体観や、2章での成功する生成AI事業の構築方法は、技術的な背景だけでなく、ビジネスへの応用方法も理解できるように丁寧に解説されています。特に、生成AIの具体的な使用例を7つのカテゴリーに分けて説明している部分は、AI技術の具体的な活用イメージを持つのに役立つと思います。
後半の章では、ユーザー体験(UX)の改善、組織の生産性向上、そして組織を「生成AIネイティブ」にするための具体的なステップやポイントを提示しており、これからのAI時代をリードするための実践的なアドバイスが満載です。これは、技術だけでなく、組織文化にも大きく影響を与える内容だと感じました。
巻末の特典も魅力的で、非エンジニアでも理解できる技術解説や、注目のAI関連スタートアップリスト、おすすめのニュースレターなど、すぐに役に立つ情報です。
全体を通して、この本はAIをこれからビジネスに取り入れたいと考えている方には、非常に参考になる一冊でした。
わたしの所属している会社でも生成AIをもっと利用するようになってほしいし、生成AIでサービスを作っていけたらいいな個人的には思っているので、上司におすすめしました。
1章 生成 AIの衝撃と各領域における驚異の実力
第1章では、生成AIがビジネスや日常生活にもたらす影響の大きさを非常にわかりやすく説明しています。特に、ChatGPTがMAU1億人を突破したことや、ビル・ゲイツ氏がGUI以来の革命的な技術進歩と評価している点は、生成AIの社会的影響力を象徴しています。
この章では、生成AIがこれまでの技術革新がどれほどの速度で進行しているかが明確にされています。GoogleがChatGPTの普及による自社の検索広告ビジネスへの影響を懸念し、社内で非常事態宣言を出すほどの状況にあることは、生成AIが実際に大手企業のビジネスモデルに影響を与えていることを示しています。
さらに、生成AIが労働市場に与える影響についても触れられています。具体的な研究結果として、生成AIが労働者の業務時間を大幅に削減し、生産性を向上させる可能性が示されています。これは、AIが単に作業を自動化するだけでなく、人間の能力を拡張し、新たな価値を生み出すツールとして機能することを意味しています。
企業や個人がこの技術をどのように活用すべきかについてのアドバイスも非常に具体的です。特に、生成AIの導入を検討している企業に対して、全社向けの勉強会を実施することや、特定部署での小規模な導入から始めることが推奨されています。これにより、経営層の理解を深め、組織全体のAI導入に向けた準備が整えられることが期待されます。
2章 成功する生成 AI 事業/プロダクトのつくり方
第2章では、成功する生成AI事業やプロダクトの構築方法について深く掘り下げていますね。特に「意義」と「意味」のデザインに焦点を当てることで、ただ技術を使うのではなく、それが解決すべき具体的な課題とどのように結びついているかを理解することの重要性を強調しています。
「意義」のデザインでは、顧客が本当に直面している問題を深く理解し、それに対する必要性が高い解決策を提供することが求められます。これには、顧客と密接にコミュニケーションを取り、そのニーズや痛点を正確に捉えることが不可欠です。実際の顧客の声を聴くことで、仮説を検証し、より精度の高いプロダクト設計が可能になります。
一方で、「意味」のデザインでは、生成AIが提供する独特の価値を理解し、それを問題解決のプロセスにどう組み込むかを考えます。生成AIの本質的価値として、コンテンツ創造のコスト削減、自然な対話の実現、非構造化データのベクトル化、マルチモーダルなコンテンツの生成などが挙げられています。これらの機能を活用して、ユーザーに新しい形の価値を提供することが、生成AI事業の成功につながります。
また、具体的な開発プロセスとしては、顧客とのインタビューや市場調査を通じて課題を洗い出し、それを検証することが推奨されています。Javelin Boardなどのフレームワークを使用して、課題の妥当性を確認し、ピボットを繰り返しながら最適な解決策を模索することが、プロダクト開発において重要です。
筆者は、「生成 AIの本質的な価値」が発揮されないようなら、潔く生成 AI以外の方法での課題解決を模索するべきと主張しています。
生成AIの本質的価値とは、:
- コンテンツの創造コストを限りなくゼロにする:広告やマーケティング資料などが個別の顧客ニーズに合わせてカスタマイズされ、よりパーソナライズされた体験が提供可能になります。
- システムによる限りなく自然な対話の実現:顧客サポートやビジネスでの問い合わせ応答などが自動化され、対人での対応コストを大幅に削減します。さらに、インターフェースが自然言語で操作可能になることで、ユーザビリティが向上し、非技術者でも容易にシステムを利用できるようになります。
- 非構造化データのベクトル化による柔軟な処理:例えば、大量の顧客レビューから感情分析を行い、製品やサービスの改善点を見つけ出すことができます。
- コンテンツのマルチモーダル化:よりリッチで多様なメディアコンテンツを低コストで提供することが可能になり、ユーザーに新しい体験を提供できます。
- 高単価専門知識の民主化:生成AIは高度な専門知識を提供することができるため、専門家でなくとも、高度な知識に基づく意思決定や分析が行えるようになります。
- 言語障壁の軽減:異なる言語を話すユーザー間での情報共有やコミュニケーションがスムーズに行われ、グローバルなビジネス展開が容易になります。
また、生成AIを活用した新しいビジネスの立ち上げに向けての具体的なステップを紹介しています。特に興味深いのは、生成AIの本質的な価値を活用しながら事業アイデアを具体化していくプロセスです。例えば、ステップ5では、選定した顧客の課題に対して生成AIの本質的な価値を組み合わせてアイデアを出すという部分があります。ここでの「本質的な価値」とは、AIが持つデータ処理や学習能力を最大限に活用して、ユーザーに新たな価値を提供することを指しています。
また、ステップ10での「MOATの仮説をつくる」部分も重要です。MOATは事業の持続可能な競争優位を確保するための戦略であり、生成AI事業においては、特に技術依存の高いプロダクト特性から、長期的な差別化戦略が求められます。具体的には、独自データの活用やネットワーク効果を利用した事業展開が挙げられます。
技術的な面では、APIの利用費というコストが発生する点も見逃せません。利用者が多くなればなるほど、コストが増大するため、これをどのようにバランスさせるかがキーになります。
この章を読むと生成AIを活用したビジネスモデルの立案から実際のサービス設計、ローンチまでの流れを理解することができ、これからの事業に役立つ知識とインスピレーションを得ることができると感じました。
3章 生成AI時代に各業界、そして社会全体はどのように変化するか
この章では5~10年という期間でAIが与える具体的な変化について、非常に詳細に予測しています。
筆者はバックキャスティング思考に基づいて、未来の姿を先に描き、そこから現在に向けて逆算する方法をとっています。
AIが人間の思考や脳と直接結びつく技術、例えばNeuralinkやナノボットによるブレイン・マシン・インターフェースなどの進歩は、人間の能力を劇的に拡張することが予測されています。これにより、人間とAIが融合した新しい種の出現という、かつてのSF小説のような未来が現実のものとなる可能性が示唆されています。
また、著者は人間とAIの関係だけでなく、教育やエンターテインメント、マーケティングなど様々な分野での具体的な変化も予測しており、AIが創出する新しいビジネスモデルや消費の主体としてのAI、さらには社会の構成員としてのAIに関する法的・倫理的な問題にも言及しています。
この本から得られる知識は、私たちがAIとどのように共生していくべきか、またそれによってどのように個人の生活や仕事が変わっていくのかを考える上で、非常に役立つものです。技術進化の加速度が高まる中で、これからの社会を生き抜くために、AI技術の理解とその適用がますます重要になってきています。
4章 生成 AIサービスにおけるUXデザインのポイント
この章では、生成AIサービスにおけるユーザー体験(UX)の設計が非常に重要であることが説明されています。特に、生成AIはそのコア機能がGPTなどの外部APIに依存していることが多いため、サービス自体の機能で差別化を図ることが難しいと指摘されています。それにより、UXの良し悪しがサービス選択の重要な判断軸になってくるわけです。
本章では、UXを「便益(u)+ 情緒価値(e)- フリクション(f)」という基本方程式で捉え、これを具体的にどのように実現していくかについて詳細なポイントが述べられています。例えば、初心者ユーザーにも分かりやすいように入力例を提示し、すぐにコア体験を提供することでWOW体験を提供する方法や、全てをチャットUIにせず、AIの呼び出し方式を工夫することなどが挙げられています。
また、プロンプトエンジニアリングをユーザーに要求しないデザインや、実務利用における生成結果の選択肢の提示など、具体的なUX向上策が示されている点は非常に参考になります。これらのポイントは、生成AIサービスが直面するユーザー定着率やエンゲージメント率の問題に対処する上で、有効な手段となり得るでしょう。
技術的な面では、これらの設計をどのようにシステムに統合するかが次の大きな課題になると感じました。
5章 生成AI技術によってユーザー体験の在り方はどのように変化するか
この章では、生成AI技術がユーザー体験(UX)に与える影響について深掘りしています。特に、「ユーザー」から「個人」というデザインの対象がどのように変化しているかを中心に述べられている点が興味深いです。
まず、生成AI技術によって、一人ひとりのユーザーに合わせたカスタマイズが可能になり、それにより「個人」へのフォーカスが増すことが示されています。これはAIが各ユーザーの好みやニーズを理解し、それに応じたインターフェースをリアルタイムで生成することを可能にするためです。ここで重要なのは、AIの文脈理解能力と、生成コストが低いことから、高度なパーソナライゼーションが実現される点です。
また、インターフェースの概念が融解し、従来のWebやアプリという枠を超えた「OS的レイヤー」での体験が新たな戦場になるという予測は、開発者にとって非常に重要な示唆を与えています。これにより、サービス間の連携や、異なるアプリケーション間でのデータ共有がスムーズになり、ユーザー体験が一層豊かになるでしょう。
「放置系UX」という新しいUXの形態も注目すべきポイントです。AIが主導するインタラクションにより、ユーザーは初期設定だけで良く、後はAIが適切に対応してくれるという体験は、非常にストレスフリーであり、新しいサービスの形を提案しています。
最後に、「マルチモーダルインプット」を前提としたデザインの重要性に触れていますが、これはインプットの多様性がアウトプットの質を向上させ、より自然なインタラクションを実現するために必要です。これにより、AIとの協業がさらに深まり、より直感的で快適なユーザー体験が提供されるようになります。
この章を読むことで、AI技術がどのようにして個々のユーザー体験を再定義し、より個別化されたサービスを提供するかの理解が深まります。
6章 組織の生産性を飛躍的に向上させる生成AIの業務活用テクニック
この章では、ChatGPTやその他の生成AIを活用して組織の生産性を高める方法について詳しく解説されています。特に、リサーチ、ライティング、コミュニケーション、アイデア企画、サービス設計という5つの領域にフォーカスして、具体的なテクニックが紹介されています。
ChatGPTを「めちゃくちゃ物知りだが、全然融通が利かない新卒1年目の後輩」として扱うことの重要性が説明されている点が印象的でした。ChatGPTを使う際に非常に具体的で明確な指示を与える必要があるということですね。
具体的には、リサーチ、ライティング、コミュニケーション、アイデア企画、サービス設計の5つの業務領域において、生成AIの活用が推奨されています。これらの領域では、情報の検索や文書の作成、コミュニケーションの自動化、新しいアイデアの生成、サービスの設計プロセスの支援など、AIを利用することで効率的かつ効果的にタスクを遂行できると述べられています。
また、ライティングにおいては、構成を事前に生成させ、それに基づいて最終的な文章を作成させる「黄金フロー」は、実際の文書作成においても非常に有効だと感じました。これにより、意図しない誤解を招くような表現を避けることができ、品質の高いコンテンツを生み出すことができます。
コミュニケーションの分野では、Whisperを使った会議の書き起こしやChatGPTを利用した議事録作成の自動化は、手間と時間を大幅に削減することができるでしょう。
7章 これからの生成 AI時代を勝ち抜く組織のつくり方
この章では、生成AIの進化が今後の企業組織に与える影響と、その対応策について詳しく解説されています。特に注目すべき点は、生成AIによって変革される企業の競争力の根本と、そのために必要な組織変革のステップです。
まず、生成AIが企業の生産性、イノベーション、顧客体験の向上に寄与する点が強調されています。これは、単に業務効率を高めるだけでなく、新たなビジネスチャンスを生み出し、顧客との関係を深めるためのキーとなる技術です。
組織の上位レイヤーが技術の可能性を理解し、積極的にコミットすることの重要性や、ビジョンを明確に設定し、それに基づいて具体的な業務改善を行うことが強調されています。また、コアチームを設置することで、生成AIの導入と活用がスムーズに進むように計画されています。
技術的な側面からは、生成AIの導入においてデータセキュリティや著作権などの法的リスクに対処する方法も詳しく説明されており、これはIT業界で働く私たちにとって非常に重要な情報です。特に、自社専用のChatGPT的ツールを開発することや、企業向けAIチャットサービスの利用が推奨されている点は、実務に直結する貴重な知見です。
最後に、社員のスキルアップという観点も忘れてはならない点です。生成AI時代に備えて、クリエイティブディレクションの能力を育てることの重要性が強調されています。これは、技術だけでなく人材の育成にも注力する必要があることを示しています。
おわりに
こういった「生成AI×ビジネス」の本は数多くありますが、この本はそれらの中でも質が高かったです。
社内で生成AIの活用、事業の展開をするにあたり、まずは経営層を巻き込んで、外部講師を呼んで勉強会をするのが良い、とのことなので、上司に提案してみようと思います!
付録のおすすめの情報ソースや、注目のスタートアップリストなども有益でした。
コメント